出っ歯を非抜歯で治療し、横顔・口元も改善したマウスピース矯正症例

他院で抜歯矯正を提案されたものの、「健康な歯をできるだけ抜かずに治したい」と希望された患者様の症例です。検査とシミュレーションを行い、マウスピース矯正で奥歯を後方へ動かす遠心移動によってスペースを確保し、上の前歯を約5mm後退させました。その結果、出っ歯だけでなく、横顔から見た口元の突出感も改善しました。

すべての出っ歯を非抜歯で同じように改善できるわけではありません。この症例で非抜歯治療が可能だった理由と、抜歯を検討した方がよいケースとの違いを解説します。

結論:非抜歯でも横顔・口元を改善できる場合がある

今回のように、治療前のオーバージェットが大きく、遠心移動で前歯を後退させるスペースを確保できる症例では、非抜歯のマウスピース矯正でも出っ歯と横顔・口元の突出感を改善できる場合があります。この症例では上の前歯を約5mm後退させました。

治療前の出っ歯・横顔のお悩み

  • 前歯の突出と、横顔から見た口元が気になる
  • 他院では抜歯矯正を提案された
  • 健康な歯をできるだけ抜かずに治療したい
  • 目立ちにくいマウスピース矯正を希望

患者様の希望だけで非抜歯を決めるのではなく、口腔内検査、噛み合わせ、前歯を動かせる範囲、骨や歯ぐきの状態、横顔の変化を確認したうえで治療方針を検討しました。

非抜歯マウスピース矯正の治療概要

主訴出っ歯と口元の突出感を改善したい。健康な歯は抜きたくない
診断上の特徴上下の前歯の前後差(オーバージェット)が大きい状態
治療方法非抜歯のマウスピース矯正、奥歯の遠心移動
前歯の移動量上の前歯を約5mm後退
治療期間1年6ヶ月
通院頻度通常は約4ヶ月に1度(治療状況により異なります)
治療費用マウスピース矯正 72万円(税抜)、リテーナー 3万円(税抜)
主なリスク痛み・違和感、装着時間不足による計画との差、むし歯・歯周病、歯根吸収、歯肉退縮、後戻りなど

正面・口腔内・横顔のBefore/After

非抜歯マウスピース矯正で出っ歯と横顔を改善したビフォーアフター
治療前(左)/治療後(右)。非抜歯マウスピース矯正による横顔・口元の変化
出っ歯を非抜歯マウスピース矯正で改善した側面のビフォーアフター
出っ歯の非抜歯マウスピース矯正による歯並びのビフォーアフター

治療前後で確認する横顔・口元の変化

  • 上顎前歯の後方移動量:約5mm
  • 前歯の角度変化:前突していた前歯が内向きに改善
  • 上唇・下唇の位置変化:前歯が後退したことで口唇も後退
  • Eラインとの位置関係:元々に比べてEラインも改善

横顔写真は、頭の角度、表情、撮影距離などの条件が異なると見え方が変わります。治療前後をできるだけ同じ条件で撮影した写真を掲載し、歯の移動量とあわせて評価します。

治療前後を比較すると、上の前歯が後方へ移動し、横顔から見た口元の突出感が改善しています。正面から歯を並べただけではなく、前歯を後退させるスペースを確保してから動かしたことが、この変化につながりました。

写真はこの患者様の治療結果です。治療による変化や移動量には、歯並び・骨格・唇の厚みなどによる個人差があります。

なぜこの症例では抜歯しなかったのか

治療前のオーバージェットが大きかった

オーバージェットとは、上下の前歯の前後方向の距離です。この患者様は治療前のオーバージェットが大きく、上の前歯と下の前歯の間に前後的な距離がありました。

そのため、下の前歯との適切な前後関係を目標に、上の前歯を後方へ移動できる余地がありました。噛み合わせの限界を確認しながら上の前歯を約5mm後退させることで、非抜歯でも前歯と口元の改善が得られました。

奥歯の遠心移動でスペースを作れた

歯を抜かずに前歯を後退させるには、前歯を移動させるためのスペースが必要です。今回はマウスピース矯正で奥歯を後方へ動かす遠心移動を行い、そのスペースを利用して前歯を後退させました。

遠心移動が可能かどうかは、親知らずの状態、顎の奥行き、骨の状態、噛み合わせなどによって異なります。

前歯をさらに出さずに後方移動できた理由

スペースが不足したまま前歯だけを並べると、前歯が前方へ傾き、口元がさらに出て見える可能性があります。今回は先に奥歯を遠心移動してスペースを作り、そのスペースを利用して上の前歯を後方へ移動しました。単に歯列を整えるのではなく、前歯の位置と角度、下の前歯との噛み合わせ、横顔のバランスを確認しながら進めたことが重要です。

非抜歯矯正で口元は何ミリ下がる?

この症例では、上の前歯を約5mm後退させました。ただし、「前歯が5mm下がれば唇も同じ5mm下がる」という意味ではありません。唇や横顔の変化は、前歯の移動量・角度、唇の厚み、筋肉、骨格などの影響を受けます。

非抜歯矯正で何ミリ後退できるかは症例ごとに異なるため、治療前の検査とシミュレーションによる確認が必要です。

非抜歯でも横顔を改善しやすい条件

今回のようにオーバージェットが大きく、上の前歯を下の前歯との適切な位置関係まで後退させる余地がある場合は、非抜歯でも出っ歯や口元の突出感を改善できる可能性があります。

一方、治療前からオーバージェットが小さい場合は、下の前歯との噛み合わせによって上の前歯を後退させられる量が限られます。口元を大きく下げたい場合には、抜歯でスペースを作る治療が必要になるケースもあります。

非抜歯では十分に口元が下がらないケース

今回の患者様には非抜歯治療の結果に満足していただきました。ただし、現在よりさらに大きく口元を後退させたいという希望がある場合は、非抜歯で動かせる範囲を超える可能性があるため、抜歯矯正をご提案します。

「健康な歯を抜きたくない」という希望と、「口元をどこまで下げたいか」という治療目標のどちらも大切です。それぞれの方法で予測される変化を比較し、患者様が納得できる治療方針を一緒に決めます。

シミュレーションを見ながら治療方針を決めます

当院では、最初から抜歯・非抜歯のどちらかに決めつけるのではなく、患者様の希望を伺いながら治療後の歯並びをシミュレーションで確認します。

  • 非抜歯では前歯をどこまで後退できるか
  • 抜歯した場合は口元にどのような変化が見込まれるか
  • 噛み合わせや横顔のバランスにどのような違いがあるか
  • 希望する変化と治療方法が合っているか

シミュレーションは治療結果を保証するものではありませんが、治療方法を比較し、目標を共有するために活用します。

非抜歯矯正と横顔の変化についてよくある質問

非抜歯矯正でも出っ歯と横顔は改善できますか?

治療前のオーバージェット、前歯を動かせる範囲、遠心移動で確保できるスペースなどの条件が合えば、非抜歯でも出っ歯と口元の突出感を改善できる場合があります。すべての症例で同じ変化が得られるわけではありません。

非抜歯矯正では口元が何ミリ下がりますか?

この症例では、上の前歯を約5mm後退させました。ただし、前歯の移動量と唇が下がる量は同じではありません。唇の厚み、前歯の角度、骨格などによって横顔の変化には個人差があります。

なぜこの症例では抜歯せずに前歯を下げられたのですか?

治療前のオーバージェットが大きく、上の前歯を下の前歯との適切な位置関係まで後退させる余地があったためです。さらに、マウスピース矯正で奥歯を遠心移動し、前歯を後退させるスペースを確保しました。

オーバージェットが小さい場合も非抜歯で口元を下げられますか?

オーバージェットが小さい場合は、下の前歯との噛み合わせによって上の前歯を後退させられる量が限られます。口元を大きく下げたい場合は、抜歯矯正が必要になるケースもあります。

治療期間・通院頻度・費用はどのくらいですか?

この症例の治療期間は1年6ヶ月です。当院のマウスピース矯正では、通常約4ヶ月に1度の通院を目安としていますが、治療状況によって変わる場合があります。治療費は72万円(税抜)、リテーナーは3万円(税抜)です。

抜歯せずに横顔・口元も改善できるか診断します

抜歯矯正を提案された場合でも、オーバージェットや遠心移動できる範囲などの条件によっては、非抜歯のマウスピース矯正を検討できることがあります。一方で、無理に非抜歯を選ぶと前歯が十分に下がらなかったり、希望する横顔にならなかったりする可能性もあります。

他院の診断を否定するのではなく、検査資料と希望する口元の変化を確認し、非抜歯と抜歯それぞれの治療結果の違いをご説明します。

歯並びだけでなく、前歯の位置・唇・Eラインを含めて、非抜歯と抜歯の違いをご説明します。

【執筆・監修者】

Mouth Peace 矯正歯科 院長 中村竜三(歯学博士)

Mouth Peace 矯正歯科(大阪府松原市) 院長

中村 竜三 Ryuzo Nakamura

  • 歯学博士
  • インビザラインドクター
  • 国際口腔インプラント学会 認定医

広島大学を卒業後、同一の医療法人に約8年間勤務し、副院長を務めました。一般歯科で多くの患者様を診るなかで、天然の歯を長く残すには噛み合わせと歯並びの改善が欠かせないと考えるようになり、歯科スタディグループ SJCD で咬合を学んだのち、矯正治療へ軸足を移しています。

はじめはワイヤー矯正を中心に100症例以上を担当。その後、尾島賢治先生のセミナーをきっかけにマウスピース矯正へ本格的に取り組み、2023年11月にMouth Peace 矯正歯科を開院しました。ワイヤー矯正で培った「どの歯をどう動かせば理想の仕上がりになるか」という知見を、マウスピースの設計にそのまま活かしています。

現在は、他院で「マウスピース矯正では難しい」と診断された方のセカンドオピニオンを中心に、毎月50件以上のご相談をお受けしています。マウスピースの設計はすべて院長が一人ひとりに合わせて行い、矯正だけでは解決しない症例に備えて、インプラント・セラミック・歯周治療・咬合の再構築まで当院内で対応できる体制を整えています。また、全国の歯科医師に向けたセミナー講師や症例検討会での講演も務め、現在も学会・研究会での研鑽を続けています。

略歴

  • 広島大学 卒業
  • 医療法人にて約8年間勤務/副院長を務める
  • プリベンチャル守口駅前歯科 勤務
  • 2023年11月 Mouth Peace 矯正歯科 開院

所属学会・研究会

  • 日本アライナー矯正歯科学会
  • 日本顎咬合学会
  • 国際口腔インプラント学会
  • 即時荷重研究会

講演・受講コース

  • 日本アライナー矯正歯科研究会 症例検討会 講演
  • 即時荷重研究会 症例検討会 講演
  • Ciao 特別講演
  • ドーソンアカデミー(米国式・咬合のコース)受講
  • FIDI インプラントコース 受講

診療で扱う分野

  • マウスピース矯正(インビザライン)
  • ワイヤー矯正
  • 噛み合わせ治療
  • インプラント
  • セラミック治療
  • 歯周治療

本記事は、Mouth Peace 矯正歯科 院長・中村竜三(歯学博士)が執筆・監修しています。内容は診療ガイドラインや学会・研究会での知見、および当院での診療経験をもとに作成していますが、症状や適切な治療方針には個人差があります。気になる症状がある場合は自己判断をなさらず、歯科医院にご相談ください。
なお、矯正治療は自由診療(保険適用外)であり、歯の痛みや違和感、歯根吸収、後戻りなどのリスク・副作用を伴う場合があります。